pixiv FANBOXが始まったけど、本当に大丈夫?
pixiv FANBOXが始まったけど、本当に大丈夫?
(要点)
<FANBOXの問題点>
- 二次創作も出来ないわけではない(が、クリエイター支援系にすると問題がある)
- マネタイズに上限を持たなくて大丈夫?
- FANBOXにチャット機能を持たせるとどうなる?
- 数字とお金を可視化したら、もうそこが発火点
<問題点を解決するには(事例)>
(5/19追記:フォロワーさんとのやり取りまとめ)
- 「原作は原作、二次創作は二次創作」は徹底されているので、マネタイズそのもので競合することは無い
- あとは権利者次第なところがあり、「○○の二次創作の人」というイメージがあっても構わない(著作権の都合上、一次創作が推奨されるのは変わらない)
- ただし、「理解」という側面では、一般の理解がどれだけ進むか、というのはマネタイズとは別問題になってくる
記憶が曖昧なところがあるので、随時参考リンク等追記して参ります。
皆さん、pixiv FANBOXはご存じでしょうか。
元々一部のクリエイター向けのサービスとして提供されていましたが、それが一般開放されました。
早速なのですが、これを放置してしまったら、後々問題になるのでは、という疑問点がいくつかあります。
割と二次創作の色も強いpixivがクリエイター支援系サービスを始めた
pixivを始めとして、それと同時期に出来たイラスト系SNSは、多くが二次創作を受け入れていた印象があります。その後、オリジナルのランキングなどを分けてある程度の棲み分けが出来るようになっていたと思います。
もちろん二次創作も容認した上で続けるのは、SNSとして活発に運営していくには必要なことだと思います。しかし、今回はマネタイズが可能な「クリエイター支援系」のサービスを始めてしまい、そこに二次創作に関する制限がなかったことを疑問視、もっと言えば問題視する向きがあります。(自分もこの立場です。詳しく説明します)
暗黙の了解「あまり利益を出さない」
一次創作はその人の作品なので良いのですが、他人の作品を元にする二次創作の同人活動については、原則として「あまり利益を出さないこと」が以前までの暗黙の了解であったり、サービスによってはきちんとそれを明記していたり、利益が商業レベルに至る場合は版権元に申請を行う、というのが通例でした。(特に出版社や原作者に還元することを考えれば……)
もっとも、「趣味なんだから」という周囲の目を考えると、そうそう利益を出すのもはばかられるというのが、これまでの認識だったのかなと思います。(正直、一次創作までそういう影響を受けるのは何だかなあという気持ちも)
さて時代は移りましてここ最近の話。
例えば噂でですが、クラウドファンディングで、「機材がほしい」という事実上のノーリターンプロジェクトが成立したという話があったり、他方で即売会では、商業レベルに利益を出そうとする同人作家がいるという話も聞くようになり(要出典なのですがソースが曖昧です)、その「これまでの暗黙の了解」が通じなくなってきた印象があります。
法律に照らすと
しかしながら、単純に著作権法などを見ると、現行では「親告罪」(権利者だけが告訴できる)なのですが、TPPの議論によって国外の基準に統一されようとしています。
このTPP周りの議論(つまり今後影響のある範囲)では、「対価を得る目的~」での著作権侵害は非親告罪(権利者以外も告発可能)となる可能性があります。
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)は、関税が注目を集めやすいですが、それだけでなく様々な法律を統一基準に合わせることを目的としているので、日本もこの影響を受ける可能性があります。
現行ではまだそうではありませんが、だからといって「権利者に見つからなければ良い」わけではなく、例えばネットで非難・炎上の対象となりうることは考えておきたいところです。
参考リンク
話が脱線しましたが
炎上の対象になるというと、例えば「無断転載」など。これでお金を稼いでいたとなれば、非難の対象になることはいえると思います。
れっきとしたオリジナル作品であれば自身の持ち分になりますが、それでもあまり稼ぐことは(一般の方でも)良しとされないというか、そもそも趣味として軽く扱われがちになります。
特に二次創作では「原作者や出版社に還元せず、その著作物で勝手に利益を得ている」と思われた時点で、権利者に見つからないとしても、ネット社会の中では議論を呼ぶこともあったりします。※
※後から気づきましたが、特に二次創作の場合、「勝手に作品を改編されない権利」などを侵害することがあるので、多くが著作権法違反になります。(が、ファン活動の範囲(利益を出さない、影響が目に余らない程度)であれば、黙認されることもありました)キャラ崩壊とかしていて、それが広まってしまっては困る、などの理由が挙げられます
例えば確定申告の話
「確定申告」という法律で定められた制度があります。ざっと書くと所得税などの確定に必要な情報を国に報告することで、通常は本業の収入を、勤めている企業が精算した上でまとめて報告するわけですが、本業以外の収入(ここではわかりやすさのため副業収入とします)がある場合は、別途自身で売り上げから経費を引いて利益がどれだけ出たかを申告する必要があります。
(これは完全に余談なのですが、払い戻しのある保険を解約して乗り換えた時、これもやはり確定申告の対象になるそうです。そこそこのまとまった金額が戻るので当然といえば当然。もちろんこれまでに支払った分を加味して、場合によっては少し戻ってくることがあります)
これは特にブロガーという人たちがよく気にする情報で、様々なブログで確定申告に触れられているので、詳細な説明はそちらにお任せしますが、当然、副業収入が出た場合は「クリエイターであれど当然申告が必要」になります。
申告の目安は、「利益(この場合の申請上の項目は「雑所得」)が20万円以上」のとき。超えそうなときも念のため計算して申請しましょう。
参考リンク
利益に上限をもうけなくて大丈夫なのか
二次創作で支援者を募ることの問題点
標題の話に戻ると、つまり、現行法上では、副業で利益を出しすぎないよう気をつけないと、確定申告など面倒なことも多いです。(まあ確定申告がもっとシンプルに、楽になれば良い話でもある気はしますが)
そしてそれだけの利益が出ているとなると、当然「何かしら目立つので」、無関係な人にもバレてしまうことが考えられます。これは、二次創作でパトロン系サービスを利用することの問題点になります。
先ほど述べたとおり、ご自身も確定申告に追われるだけでなく、「二次創作で大きな利益を得ている」と思われてしまうと、ネット社会では特に問題視される可能性があります。
特に二次創作向けには上限を設定した方が良いのでは
例えば、特に同人向けのパトロンサービスで、日本では先駆者であるファンティア。ここは支援プランごとに人数の上限を設けることが出来ます。一方の、現状(注:執筆時点は2018年5月頃)のFANBOXでは、そのような上限を定める項目が見当たりません。
つまり、事実上上限なしに利益を得ることが出来るため、人によっては「二次創作をリターンに設定し、あからさまに利益を得ることが可能」になってしまいます。
この状態は、様々な二次創作界隈や、pixivそのものにも悪影響を与えるのでは、と懸念しています。
マネタイズを加速させそうなこと:チャット機能
現状の様々なサービスや交流機能を見る限り、pixivがまだチャット機能に弱い、というのが個人的にはまだ救いなのかな、という楽観的な見方をしています。
例えばSHOWROOMなどのサービスでは投げ銭などが可能になっている上、それを生放送とチャット間でやりとりすることが可能です。例えばクリエイターの反応が直に返ってくる環境では、投げ銭を直接催促しなくても、視聴者が自発的に支援を増やすことが出来てしまいます。
もちろん一次創作であれば直接問題にはなりにくいですが、二次創作はより人の目が厳しくなりやすいので、支援される側が自制し、支援者を制限したり、抑制するよう働きかけることが、リスクを小さくするために必要になってきます。そもそも、二次創作系のクリエイターを一定程度制限する仕様は、サービスを提供する側として考えておくべきことだと思います。
それをしないまま、仮にこのようなチャット機能を増設するようであれば、(すぐに顕著にならないにしろ)いよいよ問題化が加速する懸念が出てきます。
参考リンク
数字とお金を可視化したら、もうそこが発火点
人は数字やお金が見え出すと、自分でも他人でも感情を揺さぶりやすいです
自分はもう諦めに近い無視をするようになったのですが、人間というものは「価値」が可視化されるようになると、(もちろん個人差はあると思いますが)自らなら優越感、他人なら嫉妬といった、他者と比較することによる感情というものが生まれがちです。
これは、お気に入りやRTなどの回数が分かるTwitterが良い例でしょう。あるいは、後で取り上げますが、ニコニコ動画のランキングなどもそうでしょう。実際、ニコニコ動画は(例えばバグでなったことがありますが)ランキングの問題も起きたことがあります。支援の形であるニコニ広告も、なぜか「他薦のポイントであるべき」という風潮もあります。(実際には、投稿者本人も宣伝できますし、プロモーションとして有効ではあるのですが)
参考リンク
可視化を要求されたとしても、しないでほしい
マネタイズをするとしても、それを可視化するのはよくないように思います。仕組みが分かれば、サクラなど不正の温床になりやすく、それこそ炎上のネタが増えるだけです。
商業で利用するならそういった指標は必要だと思いますが、少なくとも公開の場である必要はなく、せいぜい管理画面・マイページ程度での表示にするべきと考えます。(やりたい人はキャプチャ撮れば良いと思いますし)
かといって、その盛り上がりが見えないのは確かにもったいないとは思うので、(まあ計算すれば金額が可視化されますが)プランに参加している人数くらいは表示しても良いのかもしれません。
ただし、この場合は先ほどの「加入人数に上限を設ける」に加えて、その上限も併せて表示するということが必要になると思います。プランの空き人数でトラブルになる可能性も否定は出来ませんが、金銭トラブルなどを防止するためにも必要なことだと思います。
そもそも、なぜ確定申告やクリエイター向けの税制のセミナーが少ないのか
確定申告の面倒くささそのものも個人的には問題視していますが、それを踏まえても、それこそこういったところにビジネスチャンスがあるように思います。
もちろん、いい加減な講師によるトラブルもありそうで怖いのですが、どちらにしても、クリエイター向けに確定申告のやりかたを周知することは必要だと思います。そして、それは出来ればpixivのような、クリエイターにとって発信力があり、かつマネタイズするような仕組みを設けているようなところが率先してほしい、とも思います。
問題点を解決するには(事例)
KADOKAWAとニコニコ動画
ニコニコ動画もそうですが、運営元の親会社であるKADOKAWAも少なからずニコニコ動画に影響を残すことがあります。
その一例が「ニコニコ動画(く)」(クレッシェンド)の運営による発表会。何が問題になったか挙げてみましょう。
「(く)」の発表でまずかったこと
記憶を頼りに書いています。修正点があれば直します。
- そもそも、バージョンアップの当初の告知から大幅に日付が過ぎていた
- ようやく開かれた発表会で出てきたものが、「顧客が求めていたもの」状態になって、ユーザーの怒りが爆発
- 具体的には、パフォーマンス面での強化などが望まれていたところ、奇抜さを狙った新機能に固執していた
- 生放送のコメントで批判が殺到しているにもかかわらず、「これだったら絶対受ける」と意地でも認めないように映るトップ
ざっと挙げると以上のような感じでしょうか。この半年前、親会社であるKADOKAWAが関わった、ニコニコ動画でも大ブレークした「けものフレンズ」の制作監督であるたつき氏の降板騒動なども、KADOKAWAに対する印象面から影響があったように思います。
(参考リンク)
- 経緯については先述の記事より
- 9.25けもフレ事件 * ニコニコ大百科
この後の動きが、運営としてよかった
- 批判を受け、ニコニコ動画の運営トップを交代
- その上で、要望の多かったパフォーマンス面での改善を確約、エンジニア中心に融資スタッフを募り、大規模な要望アンケートを実施
- それらの要望を実際にハイスピードで実現
ここから比較できること
- ニコ生での運営とのやりとりはニコニコ独特の文化とはいえ、他方でpixivにおいては運営との窓口がそれに比べると少なく見劣りしやすい
- ニコ生はある意味直談判できるガス抜きの場所にもなっているし、運営にとっても生の声なので無視しにくいところがある
- 仕様変更が基本的に一方通行で、大きな変更があった際にフィードバックフォームがあるくらい
もっとも、pixivは大幅な機能・サービス追加も少なく、多くのユーザーは特段気にせずに使えているところだとは思いますが、今回のFANBOXは影響が大きいため、最低限としてフィードバックフォームを設けて意見を募られることを望みます。
note.muもマネタイズが出来る
一般には目立ってこそいませんが、ブロガー界隈ではそこそこの認知度を持つこのサービス。言うなればブログ記事にBOOST出来る、また月額課金のマガジンへ支援できる、BOOTHとFANBOXを兼ねたようなサービスです。
傾向としては二次創作ユーザーは少なく、たまに一次創作がある程度で、基本的にはイラストや小説の公開にはさほど向いておらず、本当にブログ記事専門、というイメージ。
投げ銭機能があるにも関わらずクリエイター界隈で話題にならないのは、「文章」というイメージが濃いからでしょうか。あるいは、ある程度「稼ぐ」イメージが強いブロガー界隈での流行の1つなので、クリエイターには目立たないのでしょうか。
参考リンク
Fantia
クリエイター向けといえばPatronかFantia、Entyのイメージ
逆にクリエイターに人気が高いのは、Patron、Fantia、Entyでしょうか。このうちFantiaを取り上げてみます。
FantiaはFANBOX同様、プランを作って支援してもらうという点で競合サービスであります。FANBOXはpixivのブランド力をそこに加えて勝負にきたというイメージです。
Fantiaと比較しての問題点
一方で、既に問題点として挙げていますとおり、FANBOXには「上限が定められない」という点で不安要素が強いです。また、pixivというブランドゆえ、二次創作も引き寄せやすく、そこでトラブルになってしまわないかと不安になります。
(もっとも、この問題点は、Fantiaにおける一次創作・二次創作の層の割合次第なのですが(ごめんなさい、詳細は分かりません)、上限を設けられるという点で、Fantiaの方がリスクは低いとも考えられます。)
APOLLO→Festival
同人即売会のイメージがリアル寄り
同人即売会のイメージというと、実際に現地に足を運んで購入するイメージなので、通販そのものとは分離したイメージを持ちやすいです。それゆえ、「通販システムを利用した即売会」であるAPOLLOおよびBOOTH Festivalについては、まだ認知度は高くないというイメージがあります。
APOLLOからBOOTH Festivalに移ってどうなるか
まだ始まったばかりなので大きな騒動にはなっていないという認識ですが、リアルの即売会だからこそ見えなかった部分が、これで可視化されるようになってくるかは注視しておきたいと思います。
ピアプロ
二次創作向けの利用規約とは
ピアプロは、VOCALOID系のファンコミュニティとして有名ですが、二次創作を前提にした利用規約がしっかりしているので、非常に参考になります。(他にも東方projectなど)
また、コラボレーションがある前提のシステムになっているので、人とのやりとりも少なからずあるように思います。
参考リンク
ガイドラインのわかりやすさは重要
利用規約にあたるライセンスについても明記はありますが、なによりライセンスが非常にわかりやすいです。
- ライセンスが適用されるキャラクター
- クリエイターができること
- クリエイターができないこと
- おねがい(詳しい内容を動画にまとめている)
ここを読むだけでも、二次創作で気をつけなければならないことが意識できると思います。特に、商業でやってはいけない、というのは重要で、これは単に流通させるという意味ではなく、「小遣いレベルどころじゃない稼ぎ方」という意味になるので、それこそ確定申告が必要なレベルになったら、当然目立ってしまうわけですね。
二次創作は気をつけなければいけないことが多い
上に挙げたような、ガイドラインをさらに掘り下げると、例えば「他人を不快にさせたり、傷つけたりしない」という項目があると思いますが、
- 公式設定が一番という人がいる(ゆえに、キャラ崩壊すると不快に思う人がいる)
- エロ・グロが大嫌いという人もいる(都道府県によっては厳しい規制も)
- そのほか、逆カプ論争など……
と、挙げればキリがないところもあります。
上手いこと棲み分けできればいいのですが、面倒くさいパターンだと、向こうから「不快なものを叩くためにやってくる」こともあるので、非常に面倒くさかったりします。(自分は経験はないのですが、いずれは起きうるだろうなと思ってはいます)
追記:マネタイズそのものはさほど問題にはならない
あくまで著作権の問題ですから、二次創作そのものを売ってマネタイズするのは問題ですが、「二次創作やっている」というステータスをマネタイズすることは禁止されていないという理解です。
— あかみ@音屋&写真垢 (@har_chromatique) 2018年5月18日
さらに言うと、このビジネスをどんなに巨大化させても、原作者のビジネスと真っ向からバッティングはしないんですよね。
— あかみ@音屋&写真垢 (@har_chromatique) 2018年5月18日
原作は原作、二次創作は二次創作、というのは徹底されていますから。
(もちろん原作者が二次創作をやった場合は除外)
ですね。理解の問題は全く別の話になります。
— あかみ@音屋&写真垢 (@har_chromatique) 2018年5月18日
pixivがやる以上理解は受けるでしょう。ブランドってのはそういうことですから。
ここで権利者が「pixivFANBOXの類で受けた支援を弊社作品の二次創作に投入してはならない」と言い出すと話が変わります。(リターンではなく)
まとめ
以上のことから、FANBOXにはいくつかの問題点、あるいは機能追加や展開によっては何かしらの問題が発生しかねないということが考えられます。改めてまとめてみます。
懸念点
- 加入人数の上限がないため、利益の上限が定められない
- 特に二次創作において、(クリエイターについて)ファン活動の範疇を超える可能性がある
- 利用規約も十分でなく、トラブルが起きた際の責任の所在が曖昧
著作権だけ見れば、利用者側のみに責任があるようにも見えますが、しっかりと規約を定めていない(どころか、利用者からの問い合わせで二次創作が可能(要出典)と言及があったと聞きます)ので、サービス提供側も、何らかの影響があるように思います。
対策
最低限の対策として、
- 利用規約に二次創作について規定し、周知する
- プランの加入人数に上限を設ける(こちらが重要)
が挙げられます。特に後者を対応するべきではないかと思います。いかがでしょうか。 その後のフォローとして、一次創作のクリエイター向けに確定申告の解説セミナーなど開催や仲介をしてみては、と言うと、さすがにやり過ぎな感じはしますが……。
ともあれ、pixiv側も「自制するための仕組み」というのは自衛策として持っておくべきだと考えます。利用者側も、それを理解した上で「どこまで資金を集めたいか」「どこまでリターンが出来るか」「利益が出たとして、どうやって確定申告をするか」ということを考えておくと良さそうだと思います。